2007年06月20日

麦山塩央(杉山未央)

「どう思う?」

彼女は、僕が書いた原稿を床に放った。
「私の頭が悪いからなのかもしれないけど、さっぱりわからないわ。」
まあそうだろうな。
「プライマルスクリームは知ってるけど。」
そう言って、タバコをくわえた。
彼女の部屋には灰皿がない。
それどころかテーブルとかベッドとか、家具と呼べるようなモノも無い。
今だって冷たい床に二人してあぐらをかいている。
僕は缶コーヒーを飲み干した。
「正直、僕もなんだかよく分かってないんだよ。」
彼女は、火のつかないライターと格闘している。
「ライターもってない?」
「あいにく。」
僕はタバコは吸わない。
彼女は諦めて唇からタバコをはずした。
めんどくさそうにこちらを向く。
窓を背にした彼女の表情はよく見えない。西日のせいだ。
「その原稿は僕が書いた。これは確かだ。
そこに書いてあることは、おそらく夢の中での出来事だと思う。
原稿用紙は今朝、駅前の本屋で買った。
あの本屋に文房具が一通り揃っているってことを今日知った。
レシートもちゃんととってある。」
彼女は僕が差し出したそのレシートに目もくれず、つまらなそうに鼻を啜った。
僕はそれを財布に戻して話を続けた。
「君も知っての通り僕は物書きじゃないし、本だってそんなに読まない。
空想の強いタイプじゃないし、それに」
「プライマルスクリームなんて聴いたこともない。」
「そう。骨相学なんてものも知らない。」
僕は、タバコを弄んでいる彼女の手を取った。
「これなんだけど。」
一枚の紙を渡す。
「これは何のレシート?ボールペンのかしら。」
「ペンは家にあったのをつかったよ。」

今朝気がつくと僕はベッドの中にいて、手に一枚の紙を握っていた。
僕はその紙の感触を知っていた。
さっきまで後ろ手に握っていたあの紙だ。間違いない。
僕はその時の記憶を書き留めておく必要を感じた。
そして、思い出せることを全て書き出し、それは夢だったのだと理解することにした。
だけど夢だとするとその紙は何故ここにあるんだろう。
「お願いなんだけど、今夜一晩、僕の隣にいてくれないかな?」
彼女はゆっくりと立ち上がってカーテンを閉めた。
カーテン?そんなものがこの部屋にあったのか。
彼女の顔がぼんやり見える。一つの疑問が浮かんだ。
「君は誰だっけ。」
彼女の顔がゆがむ。
「私は―
posted by シャチュウブログ at 17:32| 東京 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | サイキック☆プロファイル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
やあ。

mioさんは、文をかくのがすごくじょうずだと思います。
たぶん、にげた、どんぶり犬より上です。

だよねーー☆ねー。

6点

Posted by D君 at 2007年06月20日 20:03
誉められた!ありがとございます〜。
それにしても、
逃げた犬はどこ行ったんでしょうね。
多分その辺にいるな。
見かけたらエサ(プロテイン)を与えてあげてください。
みなさんよろしくです。
Posted by ミオ at 2007年06月20日 22:51
せ、先生に向かってなんたる暴言を…
しかし確かに麦山さんの作品は、奥が深い…
リアルにびっくりしちゃいました…
お見事!!
Posted by 長良川太郎 at 2007年06月21日 09:33
高校の時、文芸部の部長をして(いる友達に鍵を借りて教室の目の前にある部室で寝て)いました。
丼先生、尊敬してますので早く帰ってきてください。
Posted by ミオ at 2007年06月21日 11:35
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